このへんに置いとく

エッセイとかなんとか

モーニングセット

朝5時、真面目にきちんと鳴ったアラームを止めて二度寝する。 

6時半、そろそろ膀胱が限界だ。 

また布団に戻ってきてもいいのだけれど、ここ数日怠け気味だったのだ、そろそろ起きてしまおう。 

7時のチェーン店の開店にはちょっとばたつくし、遅くなると混み出して居心地が悪い。 

そうだ、久しぶりに向かいの喫茶店に行こう。 

あそこは8時からだ。 

あの窓側の席に座って、モーニングを注文する。 

いつだって同じ。トーストセットで飲み物はカフェオレ、ゆで卵は抜きで。 

ゆで卵は嫌いということもないのだけれど、積極的に食べたいほど好きでもない。 

あの卵特有の匂いというものがいまいち受け付けない。 

特に固茹でにされたのは、喉にもったりと貼り付いて、いつまでもその匂いを留めようとまでしてくる。 

この匂いは黄身のせいだと思っていたのだが、メレンゲ菓子でプンと匂ってきたことがある。犯人は白身。つまりゆで卵の匂いは黄身が喉元に絡みついて白身の匂いを留めるという共犯によるものなのだ。 

そもそも私はタンパク質というものを食べすぎると具合が悪い。 

肉も魚も好きではあるのだが、これらが多い日が続いてくると顔は浮腫んで首と一体化しようとし、腹は前に張り出てチクチクと痛み、空腹なのかイラつきなのかも見分けの付かぬ間に何かを口に入れてはまた不快感が増すのだ。 

こうなると徹底的にタンパク質を抜く必要が出てくる。 

朝はお茶のみ、昼はうどん、夜も白飯と漬物くらいでいい。 

これを一日二日続けているうちに腹もポコポコと動いてくる。 

子供の頃からそうだったのだ、体質なのだろう。 

生クリームや牛乳でも気持ちが悪くなっていたし、成人してからはすっかり忘れるほど許容できてはいたものの、カフェオレとなんちゃらラテを同じ日に飲んだ日なんかは腹を下したりする。 

筋量はわりに付きやすい方だし、増やしたとて誰に見せる訳でもない。炭水化物と野菜を中心にしてもいいのかもしれない。 

高タンパク高脂肪食のようなのは我々日本人には相性が悪いに違いない。 

50年前の日本人と比べてスラっと長身で体格良いのも多くなってきたとはいえ、体質はそうそう変わらないはずだ。 

漬物と味噌汁、タンパク質は豆腐で少し。 

刺身も時々食べたいなあ。刺身なら大量には食べられないしちょうどいい。 

タンパク質が苦手と言いながら、刺身やローストビーフのような生に近いものはそんなに腹を圧迫しない感じがあるし、二日酔いの昼下がりに青黒い顔でマグロの漬けなんかを仕込んで薬味を刻み白飯に混ぜ込んで、この漬け丼でむしろ身体の巡り出したような感覚を得たこともあった。 

そうだ、今日は安いサクを買ってきて漬けをしてやろう。 

美味い柚子胡椒を買ったんだ、これも少し入れてみてもいいかもしれない。 

そうなると酒も飲みたくなるな、いまあるのは安焼酎だけか。 

いやいやいけない。腹の調子があまり良くないのだった。 

ノンアルコールビールにしておくか。 

炭酸が腹の張りを圧迫しそうではあるがまあ許容だろう。 

しかしサクの小さいのがあればつまみにする分はない、ノンアルビールを用意するまでもないかもしれないな。 

帰りにスーパーを覗いてから決めるか。 

さて。そろそろトイレに行こう。 

 

冷めた味噌汁

 
 

なんだか胃も頭も重い。 

昨夜は酒も飲まずに寝たのに。 

夏バテだろうか。 

しかし最近はむしろスタミナをつけようと肉やらパンチの効いたのが多かった。 

スタミナが足りないのではなく熱が籠もっているのかもしれない。 

そう考えると体が火照っている気もする。 

動かない体をなんとか起こして居間へ向かう。 

コンロには小鍋。 

昨日珍しく味噌汁を作ったんだった。 

豆腐だけの味噌汁だが一丁全て入れたので昨夜は食べ切れずに残しておいたのだ。 

しかしまあ、今はなにも口に入れたくない。 

とりあえず水を飲もう。 

とはいえ熱中症になりかけているのかもしれないな。 

そういえば味噌汁は熱中症予防に良いとも聞く。 

冷めたまま冷や飯にかけても美味いかもしれないな、とコンロへ向かう。 

耐熱ガラス製の鍋蓋に水滴がいくつもぶら下がり、あまり美味そうに見えない。 

そうか、こんな暑い時期に一晩常温で置いたのだ、そのままはいかんなと思いつく。 

コンロに火をつける。 

暑い暑い言いながら、結局冷や飯も温める。 

熱いうちに汗を垂らしながらかきこむ。 

もう一度冷ましてから食べたらよかったな、温めたご飯も水で洗えばもっとよかった、なんて思いつつ。 

しかしなぜだか汗をかききると爽やかさが出てくる。 

朝が、やっと動き出した。 

 

 

開かない

 
 

そろそろ新大阪だ。 

乗車券、特急券、全てあることを確認する。 

いつものごとく人が多い。 

改札の前になんとなくできた列に並び進む。 

少しだけ緊張しつつ券を全て入れる。 

扉が動く。良かった。 

だが一瞬、まるで迷いが生じたかのようにまた閉じようとする。 

あれ、もう一枚足りなかったか。とこちらも考えていると、それも気のせいでしたとまた開く。 

弄ばれたようななんとも言えない気持ちになる。 

 

自動ドアだってそうだ。 

自動改札のようにまどろっこしいことはしないけれど、何度もそこに立ち直そうが、センサーと思われる部分に手を振ってみようがこちらを認識してくれないようなときには例えようのないもどかしさを感じる。 

かと思えばよく見ると押しボタン式だったり、それもウァン!と音だけして開かないと思っていると営業時間前だった、なんてこともあって恥ずかしい 

 

開くはずのものが開かないとどうしてこうももどかしいのだろう。 

いや、開くはずと思っているものか。 

断られないと思っていたのに断られた、なんてのもきっとそうだ。 

しかしよくよく考えると、断ることも迷うことも本人たちの自由だ。 

次に新大阪に降りるときは、一拍だけ余裕もって見届けよう。 

羽音がする

 

蒸し暑く寝苦しい夜だった。 

居間にしかエアコンがついていないので、エアコンを付けたまま扉を開け放して寝ようとした。 

しかし暑い。 

寝付けないまま何度も寝返りする。 

そこへなにやら羽音が聞こえ、すぐ側のカーテンで止まった。 

無視して寝ようとも思いながらも、羽音からその大きさを想像する。 

なかなかデカい。 

急に現実味を帯びてベッドから離れ、電気をつけた。 

やはりデカい。 

しかし、想像していたあの害虫ではなさそうだ。 

似てはいる。でもなんか違う。 

もっと体が細く、頭と胴の間でくびれている。 

カミキリムシのような形。 

なんだ、昆虫か。 

とはいえこいつとともに一夜明かすのも嫌だし、こいつが本当にあれではないという確信も持ちきれなかった。 

仕方無しに深夜のコンビニに駆け込み、害虫駆除スプレーを購入する。 

そして帰宅すると、もういない。どこへ行ったのか。 

寝室に寝るのも嫌になって、しばらく居間で寝ることにした。 

やつは再び現れることはなかった。 

やつはどこから来てどこへ行ったのだろう。 

こんな街なかにあんなデカいカミキリムシ。 

幻か。いや、あれと思わないための逃避かもしれない。 

 

 

 

今夜の宿

 
 

一泊2食付きで一万円弱。 

いまの時代なかなか出会えない価格だが、田舎を旅するとたまにこういう宿にご縁がある。 

本日の宿もそう。 

ここは市街地から電車で30分のところにある小さな温泉街だが、その中でもここは破格らしい。 

口コミを見ると、「レトロというより廃墟」だの、「トイレがホラー」だのも見られ、やたらと想像力を掻き立てられて怖気付く。 

 

怖くなるとあらゆる方向にとにかく怖い。 

最寄り駅で無人駅と思って改札を素通りしようとしたところを、駅員に呼び止められて驚き小さく飛び上がる。 

車道はまだ安心できるのだが、少し道が細くなり雑草の丈が長くなってくると、今度は熊などが出やしないかとビクビクし、音楽を鳴らし大袈裟に足音を立てて独り言を挟みながら歩く。 

 

なんとか到着した。 

廃墟と呼ぶには形を保っているのにまず安心した。 

それにこの日は私の他にも何組か宿泊客がいるらしい。 

そして女将の案内でいくつもの開かずの間の前を通り、部屋へ案内される。 

なんだ、床も天井も歪まず水平を保っているし、座卓なんて漆塗りで立派じゃないか。 

畳も凹んだり毛羽だったりもなければ謎の染みもない。 

掛け軸はまあ、趣ととるか否か。 

 

風呂もいい。 

まああちこち黒いしひび割れているが。温泉宿なんてこんなもんだろう。 

問題のトイレも可もなく不可もなし。 

食事も十分うまい。 

こんな山あいの宿で刺身なんてと思ったが、意外と食べられた。 

鮎やらなめこ汁、鍋物までついている。 

これはすごい。 

酒類で儲けるつもりはないらしく、中居さんは小鍋の火をつけるとごゆっくり、と出て行ってしまった。 

茶も水もない。 

仕方がないので汁物を挟みつつ30分で平らげた。 

あれ、隣の部屋から酔客の笑い声が聞こえる。酒もあるのか。 

まあいい、今夜はシラフを楽しもう。 

食後の風呂まで終えてもまだ20時前。 

こんな時間もいい。 

 

 

釣る、捌く

 
 

馴染みの店なんかで釣った魚を持ち込んで調理してもらうのに憧れる。 

「こんなのよう釣ったな」なんて言ってもらって自尊心をくすぐられながら、自宅で作るよりはるかに美味い料理で酒を飲む。 

周りの客にも「よかったらどうぞ」なんて生産者面して振る舞ったりなんかして。 

しかし現実的にはなかなかこのシステムを成り立たせるのは難しいのかもしれない。店の儲けや手間というものを私たちはなかなか想像することができない。 

小魚ばかり持ってきて、さあ材料費がかからないんだから安くしろなんて言われては堪らないだろう。 

 

かくいう私も他人の愚痴を共感とともに聞いてはそれを解体してミックスフライ定食にまでして提供してやっていた。 

相手は「素材が良いから美味いんだ」と満足げな顔をしている。 

こんなこと言ったら怒られそうだが、ミックスフライにまで加工したら素材の良し悪しよりも調理技術だろう。 

お造りや焼き魚で十分美味しいような上等素材とは訳が違う。 

愚痴なんてそもそもが臭いから捨てにきているのだ。 

美味くするには手がかかる。 

 

愚痴は聞いてやればいい。 

でも、臭みを抜いて下味をつけて衣をつけてカラッと揚げてタルタルソースまで添えてやるのはやりすぎだ。こんなの市販の冷凍品を揚げるよりも手間も材料費もかかる。 

もちろん美味い。そしてこんな粗悪なネタをこんなに美味く変身させられた自分が誇らしい気持ちすらある。 

しかし、対価が労力に見合わない。 

臭い魚は臭いまま出してやろう。 

さもなくばまた難題を吹っ掛けられる。 

この外道を美味しく調理しろ、素材が良いんだから、と。 

 

 

カモメ

 

昨夜の暴風雨が嘘のように晴れて暑い。 

海辺を歩いたら気持ちがいいかもしれないなんて期待したのに、太陽を遮るものは何ひとつなく、水面の反射まで目を刺してきて、これなら宿のあたりを散歩するくらいにしておけばよかったかな、なんてほんのり後悔する。 

 

かもめが二羽。 

一羽は小さなヒラメを仕留めたらしく、もう一羽が物欲しげにそのまわりをちょろちょろしている。 

さっきの刺身定食が昨日の居酒屋の美味さに及ばなかったことの腹いせに、こいつらをじろじろ節操なく観察してやろう。 

ヒラメは小ぶりではあるものの、カモメが丸呑みできる形状ではなく、咥えたまま空を仰いで何度か喘いでは地面に落としてしまう。 

落とすたびにもう一羽がそれを狙ってクワァー!と鳴くのだが、取られまいとすかさず拾ってあぐあぐと空を見上げる。 

何度も何度も繰り返し、さすがに疲労が溜まったか。 

ついに拾い損ね、横取りされてしまった。 

横取りカモメはヒラメを地面に置き、くちばしで何度か突いて食べやすくしてから飲み込もうとしている。 

盗られた方はというと、また取り返せばいいのに、「最初から興味ありませんよ」とアピールでもするように、ヒラメから目を逸らし、でも未練は捨てきれずにあたりをパタパタと歩き回っている。 

よくみると、横取りカモメは元の持ち主より一回り大きく、羽もツヤツヤとしている。 

こいつははじめから持ち主が持て余すことを見越していたのだ。 

カモメ社会も世知辛い。